ヴィンテージセンターピンリールの魅力と回転持続時間の意義
ヴィンテージセンターピンリールは、入荷段階ではオイルやグリスその他の汚れなどがあり清掃が必要なことも多いのですが、これをするとリールの回転がかなり変わることが多いものです。
ここで、当然回転は「良くなる」と思われるでしょうが、時々逆のこともあるのが難しいところです。特に、JWヤングのセンターピンリールの多くは回転の滑らかさを調整する2つのネジがあり、これが意外と曲者です。1つ目は、スプール表面についているネジで、ラピデックスやトゥルーデックスなどであれば小さな穴があいていてそこについています。オープンスポークのピュアリストやヘリテージなどは、スポークそれ自体についています。このネジは基本的には緩めておけば回転は良くなる方向に働くので単純です。
問題は、スプールの回転軸のトップにあるネジです。これは説明書などには経年による回転の変化を調整する以外には触らなくても良いと書かれており実際そうなのですが、ヴィンテージセンターピンリールの場合はすべてばらして清掃するのでこれも必然的に一度外すことになるのです。そして嵌めなおすと、意外とどこまで締めるかが難しいのであります。
思いっきり締めると、かなり回転が硬くなり不可です。しかし緩めにしておくと今度はスプールがガタつき逆に回転が悪くなります。スプールがガタつかず、なおかつ必要以上に強く締めないことが大切なのですが、ほんの少し回すだけで回転がかなり変わることがあるのが難しいところです。
しかし上手くハマると、例えば入荷時10秒くらいしか回らなかったリールが30秒くらい回るようになることもあり、これはこれで面白くうれしいものです。


ところで、センターピンリールの回転の滑らかさを、しばしば何分回っているかで計測したりしている動画がYoutubeなどにアップされています。
はっきり言いますが、1分以上はそれがたとえ2分でも5分でも殆ど意味はありません。むしろ、長く回り過ぎているリールはスプールが重く、実釣ではダメな製品であることが多いものです。
慣性の法則をご存じでしょうか。センターピンリールに求められる回転とは、如何に小さな力で回り始めるかであって、どれだけ長く回っていられるかではありません。だとすれば、慣性が小さなスプールが良いということになります。慣性が小さいということは、ちょっとしたことでも回り始めますが、回転は長続きしないという事なのです。
英語でセンターピンに関する掲示板などがあり読んでいると面白いのですが、この事実をきちんと理解されている方は意外と少数派です。勿論、正しく認識されている方もいらっしゃいますが。
1分以上と書いたのは、いくら慣性が小さい方が良いとは言っても、指で押すほどの力が加えられた以上は、相当に回転が滑らかであれば1分程度は回るのが普通と考えられるためです。大体現行のハイエンドモデルの新品時の回転時間がその程度でもあります。
ヴィンテージセンターピンでは、ベアリングのないモデルも多くあります。こういったモデルは一見回転が悪いように思われがちですが実際のところ回りだしの軽さで言えば大差はなく、むしろベアリングは回転時間を無駄に長くするだけの側面もあります。
新品ではないヴィンテージセンターピンリールでは大体30秒程度回れば十分回転は滑らかといえます。実際wallisキャストをするにしてもこんなに回し続けることはありませんし一旦流し始めれば指でドラグを掛けていることが殆どです。とにかく回りだしの軽さが大切なのです。
また回転時間は先ほど書いた様に慣性の法則で慣性が大きい方が回る時間は長くなりますので、スプールが重い方が長く回ります。例えばラインを巻いた後では回転時間が倍近くになった例もあります。
JWヤングの現行モデルに代表されるオープンスポークは、スプールを軽くし慣性を小さくする意味合いがあります。「一見」回転が良いように思わせるには重いスプールを作ればよいのですが(実際中国製のセンターピンなどはかなり重いです)ヤングはもちろんそんなことはしません。センターピンの本当の役割を知っている人は回転時間などには殆ど意義を見出さないのです。
そう言う意味では、むしろ例えばガンダマのどのサイズを吊下げて回り始めるか、といったテストの方が重要です。ただ一手間かかるのと基準が分かりにくい為、未だに回転時間がどれだけ、といった話がセンターピンリール愛好者の間では多いのもまた事実です。
当サイトでも目安として回転時間を記載しているものもありますが、それは先ほど書いた様に新品なら1分程度、ビンテージなら30秒程度という大まかな目安によるもので、その秒数自体に大した意味はありません。どの機種も実釣で問題が生じることはまずないでしょう。繰り返しますが実釣では指でドラグをかけることの方が多いのですから。
ところで回転といえば、特にヴィンテージセンターピンリールは数時間回していたり何度か釣行したりしていると回転が良くなってくることが多いです。こなれてくる、といったものでしょうか。無論ミシン油を差したりしても変わってきますがこれも差し過ぎは逆効果だったりとコツがあります。基本は軸に1滴落とす程度で十分です。
やっかいなのは先述の調整ねじなどの締め具合でスプールがこすれるような音がして回転が悪くなったりすることがあります。わずかなずれなどでこういったことが起こるようですがオープンスポークでない限り中が見えず原因が良く分からないこともあります。そんな時もあれこれネジを調整したりしていると不思議と直ったりするのもまた謎です。
シンプルな構造ですが、非常に奥が深いのがセンターピンリールの難しいところでもあり魅力でもあるのです。
