英国式トロッティングの実際
英国のコースフィッシング(フライフィッシング、あるいはサケ・マス以外の魚釣り)において、最も伝統的な釣り方の一つがセンターピンリールを用いたトロッティングであろう。
古くはアイザックウォルトンが釣魚大全を記した時代からこの釣法は確固たる地位を築いており、それはただ単に懐古主義者の好むものではなく、多くの極めて効率性を重視する現代の釣り人からも支持されている釣法である。
いわゆる中流~下流域に於いて、このトロッティングはグレイリングやチャブ、テンチ、ローチといったコイ科の愛すべき魚達を狙うのに主に用いられる。西洋ニゴイや中型程度のマゴイ、カガミゴイ、そしてフナの類もターゲットとしてあげられる。


伝統的な英国式トロッティングによれば、竿はスプリットケーンのバンブーロッドで長さは13ft程度、リールはセンターピンリール、ウキはAvonウキ と呼ばれるタイプの、トウガラシウキの変形版のようなウキで、細糸にガンダマをいくつかつけて小さな針にパンやサシムシをつけて流して行く。流す距離は場 合によりけりだが、ロングトロッティングと呼ばれる長距離を流すケースでは、20~30m、時には40m程度流す事もある。
現代のトロッティングにおいて、竿はしばしばカーボンロッドにとって代わられているが、基本的に仕掛けは先述の通りであり、錘の打ち方やウキの選択はあ るものの、概してシンプルな釣り方である。 トロッティングはいわば攻めの釣りであり、探りの釣りである。 川底の状態、刻々と変化する水深、表層流と低層流の差、こういったものに常に気を配りながら、魚に餌をアプローチして行くのがこの釣りの難しさであり、醍醐味でもある。
それでは、ここからは具体的に、英国式トロッティングをベースとしたタックルについて考えてみる。
【竿】
マッチフィッシングロッド/フロートロッド
長さは10~15ft程度の、いわゆるマッチフィッシングロッドが使用される。 フロートロッドとも呼ばれるこの手のロッドは、小さめのガイドが多数ついており、通常は3本継である。 イメージとしては磯竿が短く、並継になったような感じを想像されると良い。 穂先は比較的柔軟で、多数のガイドは糸ふけによるライン干渉を防止している。
ルアーロッドで代用できそうな気にもなろうが、多くの場合、ルアーロッドはガイドが少なく、また大きすぎる。 そして、自重についても、マッチフィッシングロッドより重く、扱いづらいだろう。 やはり、専用のマッチフィッシングロッドが適している。フロータニア14ftは大鯉に対応できるパワーを持つスーパーフロートロッドだ。
【リール】
これはセンターピンリール以外にあり得ない。 北米式のスチールヘッド狙いのフロートフィッシングならばベイトリールやスピニングリールの流用も出来なくはないが、英国式トロッティングが行われるような緩い水流で、任意にラインを緩めず張らず送り出していけるのはこのリールを差し置いて他にない。 黒鯛用の落とし込みリールは直径が小さすぎであり、糸癖が付きやすく長距離を流すのには適さない。 JW young社やHardy&Greys社のものが有名である。 古いセンターピンリールの中にはアンティーク品としてコレクションの対象になっているものも多い。北米で人気のOKUMA社のリールはリーズナブルながら大変高性能だ。
【ウキ】
トロッティングの主役は、センターピンリールとこのウキであろう。 長距離を流す場合、比較的大きめの、体積のあるタイプのウキが適している。 具体的なウキのタイプ別選択については、こちらを参照されたい。
【ライン】
4lb程度の細糸から、コイなどを狙う場合はより太めのラインも使用される。 ただしセンターピンリールはいくらでもラインを調整して出す事が可能なので、通常よりも細糸を使用してもあまり切られにくいというメリットがある。 75cmのコイでも10lbもあれば上げられているので、あまり不用意にラインを太くするのは避けたい。というのも、太いラインはどうしても風や水流の影響をうけて、適切な流しを阻害することがあるからだ。そしてもちろん、ラインは浮くものが良い。 ラインが沈むと、水流をうけて仕掛けの適切な流しを阻害する。 フロートタイプのナイロンラインが理想。PEも可能だが、よほど大きな魚を狙わない限りあまり必要がないと思う。
【ガンダマ】
これは必需品である。付け方については、こちらを参照のこと。
【針】
これは対象魚によって適宜用意する。
【ハリス、道糸などの接続について】
ハリスを用意するのか、道糸からの直結をするのか、その辺りは、殆ど好みといってよい。 できるだけ細糸を使いたい場合、強度を出すために針まで直結で仕掛けを組むが、交換の際は面倒である。通常は、数十センチのハリスを取ると良いだろう。接 続は、小さなヨリモドシをつけてもいいが、電車結びなどでも十分である。 逆に、ハリスと道糸の間に、更に中間ラインを設けるパターンもある。 ハリスが最も細いライン、次に、オモリやウキが留まる数mの場所にやや太めの中間ラインを設け、最後に道糸(最も太い)に繋げる。 中間ラインはしばしば傷が付きやすく、交換すべき場所であるので、こういう仕組みも理にかなっている。
【餌】
典型的なのはサシムシである。赤虫やミミズもいいだろう。 鯉などを狙う場合はパンが非常に効果的だ。少し指先でつぶして沈むようにするのがポイント。 いわゆるパンプカとは異なり、パンは沈めて流す。針付近にガンダマを打つのもいい。 流していく性格上、ダンゴ餌はあまり適さない。練り餌は考慮に値するだろう。



実釣編
【釣り場の選択】
対象魚にもよるが、この釣りが出来ない釣り場というのは少ない。 敢えて言うならば、完全な止水域では流し釣りが成り立たないので厳密な意味ではこういった釣り場は不向きだが、センターピンリールの魚とのやり取りの醍醐 味は、それだけでも止水域でこのリールを使う価値をもたらしてくれるだろう。
英国式トロッティングでは、日本で言うところの中流~下流域程度の流れの小河川で、小型~中型魚を 狙って釣りが行われる。 これを日本で行うとすれば、開けた渓流域でのヤマメ、アマゴなどの鱒類、清流域でのオイカワ、カワムツ、ウグイ、 ニゴイなど、下流域での鯉、鮒、モロコなど、殆どの魚をこの釣りで釣ることができる。 より仕掛けを頑丈に、餌も相応のものを用意すれば、ブラックバスや鯰などの肉食魚、また、北米のスチールヘッド狙いで証明されているようにこの釣りは大型 鮭鱒にも有効である(もっとも、英国式トロッティングとは少し仕掛けのサイズや趣が異なるのであるが)。
よって、よほどの急流、源流域、また、大河川で沖合にしか魚がいないような特殊な釣り場を除けば、なにかしらの魚が相手をしてくれることだろう。 来るもの拒まず、自身が開拓者になったつもりで、様々なターゲットをセンターピンリールで上げていくのもまた面白いに違いない。
【ウェーディングをするか否か】
護岸されていない川辺であれば、ウェーディングして釣ることはこの釣りにとってとても有効な方法だ。 ウェーディングさえしていれば、無理してキャスティングで遠方を狙わなくても済むし、ロングトロッティングでも仕掛けが岸寄りに寄ってくるのを抑えられ る。 水深の浅い小河川であれば、川の真ん中あたりまでウェーディングで入って行って、そこから仕掛けをただ落とし、 まっすぐ下流に流していけばとても快適な釣りができるだろう。延べ竿の釣りでは魚を驚かせてしまうようなやり方だが、数十メートルも 下流を攻めることができる流し釣りでは、至ってよくある釣り方である。
【キャスティング】
ウェーディングしている場合はただ仕掛けを落とし、流れに乗せていけば事足りる場合が多いが、 護岸などからの場合は必然的にキャスティングが必要になる。 とはいえ、数メートル~10メートル程度も飛ばせば十分である。後は流れがウキを連れて行ってくれるだろう。 尚、いわゆる本流域や開けた渓流域のような、流速が強い場所の場合は、渓流釣り同様に、仕掛けを投入する 場所は女波のような吸い込む流れの場所を選ばないと、なかなか仕掛けが沈まずなじまないので注意。 大オモリを使って無理やり沈める方法もあるが、そうするとウキも大きくなり、表層流の影響を受けやすくなるのでしっかりと女波を探したほうが得策である。
【流していく最中で…】
さて、実際に流して行くわけだが、流し方にもコツがある。 流れの強弱によって、ウキ先行で流すか餌先行で流すかは選択すべきであるが(詳しくはこちらを参照)、 いずれにしても、回転性能のよいセンターピンリールは、ともすれば流していく中でオーバーランしてライントラブルになることがある。よって、フリーに流すウキ先行の流しでも、時折わずかなドラグを かけて、スプール回転にセーブをかけよう。これは餌の吹きあがりを演出もするので誘いにもなる。
ウキ先行で流している場合、ウキの頭が真上を向いていればスムースに流れており、下流方向に倒れていれば、それは錘が水底を這って棚が余っているということだ。こ れを放っているとそのままウキが沈むことがある。即ち、錘が軽く水底に引っかかり、ウキが動けずに表層流で沈まされている状態である。 こうなったら軽くラインを煽って、外してやれば又流れ出すが、あまりにもこれが多いようだと棚を少し浅くすべきだろう。とはいえ、軽く、時折錘が水底を這うのは棚としては適切である。
餌先行、つまりドラグをかけた状態で流している場合、引っ張っている以上、常にウキの頭は上流側に向く傾向にあるので、これからの錘の水底への接触は判断が難しいが、 明らかにスムースに流れている場合は少し棚が浅いかもしれない。時折スピードが緩んだり引っかかったりするくらいが底を取れている状態とみて良く、流れ方 があまりに遅い、あるいは止まってばかりであるなら 棚が深すぎる。 もっとも、或る程度水流があれば、かなり棚を深くしても餌を吹きあがらせながら流すことでいくらでも対応できてしまうので、流すスピードと水流、水深等全 てを考慮して棚を決めると良い。
【アタリ】
流れのゆるい場所ではほとんど普通のウキ釣り同様に考えればよいので、アタリは明確に分かるだろう。 先述の通り、ウキの頭が下流を向いた後じんわりと沈むのは錘が引っかかっているだけであるからこれさえ注意しておけばよい。不規則な揺れ、ピクピクといった上下の動きももちろんアタリである。 小魚の場合はウキが完全に沈まない場合もあるが、通常、ウキの頭だけが水上に出るように錘を設定するので、スッという消し込みが一般的である。
本流のような流れのある場所での釣りの場合、ドラグをかけながらの餌先行で流している場合が多く、結果としてウキ自体よりもラインを通してアタリ が伝わることもある。 流れのある場所ではしばしばウキが不規則に波に揉まれたり、錘が引っかかったりする等、流れのゆるい場所のようなプレーンな流れ方をしてくれないことが多 いのでアタリを読みにくいが、基本的に急な動きでかつ 不規則な動きには軽く合わせてみる。 石への引っかかりなどとは微妙に質の異なる動き方をするのでよく注意して流そう。
【取り込み】
小魚であれば普通にハンドルを回していくだけだが、相手が大物の場合、指による人力ドラグで対処しながらやりとりする。これがセンターピンリールの醍醐味である。

ウキの頭の向きで錘と水底の接触状況を読もう

取り込みは最後まで慎重に、間際で暴れればすかさずラインを送り出せばよい。