のべ竿大物釣りに必要な竿のパワー
グラスファイバーの竿はパワーがあるか
ここまで読まれた上で、少し違和感を感じられる方もいらっしゃるだろう。どこまで曲げても折れないグラスの延べ竿は、本当にパワーが無いと言えるのだろうか。おそらく、充分なラインと十分な強度を持ったグラスののべ竿で魚を掛ければ、メータークラスの魚もいずれは弱って釣り人の腕力で強引に寄せることは可能だろう。ならば、このグラスの竿にもパワーがあると言うことができるのではないか。そもそも、折れないということが、パワーがあると言うことではないのか。
パワーという表現は実に曖昧だ
カーボンロッドは確かに高反発で魚をしっかり寄せてくれるが、限界点を越えるとすぐに折れる。この点、どんなに強いカーボンロッドもグラスに比べれば「パワーが無い」。すなわち、「強度」としてのパワーが無い。一方で、グラスの反発力はカーボンのそれに遠く及ばず、パワーの定義を「曲げた分だけ反発し魚を寄せる」、という意味で捉える限りはグラスロッドは全く「パワーが無い」。これはすなわち、「反発力」としてのパワーが無い。結局のところ、単純にパワーといっても文脈により時に強度、時に反発力として捉えられるため混乱しがちだが、一口でパワーのある竿、といっても、先のグラス的な意味合いでのパワーのある竿と、純粋に反発力主眼でのパワーのある竿と、大きく2つがあるように思われる。
現代のべ竿大物釣りでのパワーとは、強度である。
誤解を恐れず言えば、事実上グラスロッドののべ竿は遠い昔に消え去った現代の、カーボンロッド前提で話を進めると、延べ竿大物釣りで求められる「パワー」とは、先のグラス竿の例で言う、強度的な「折れない」パワーであると言える。反発力と言う点では、鮎竿などで用いられるレベルまで考慮すれば高弾性カーボンの上限はキリが無い。しかし、これらは確かに強度的な許容範囲内での魚を寄せる「パワー」はあっても、その許容範囲が狭い。ラインを出していけるリール竿とは異なり、延べ竿では簡単にその強度的な許容範囲を超える事態が発生する。カーボン素材で最も強度が強いのは極端な高弾性では無く中弾性カーボンであり、大物延べ竿釣りで求められる「折れない」といパワーを有するのはこのレンジである。弾性にこだわる方は、超高弾性の張りのある竿をパワーがあると理解されがちだが、竿の限界強度を試すことになる延べ竿大物釣りでは、弾性のむやみな高さはリスクファクターでしかない。カーボンロッドである以上、多少弾性が低くとも十分に魚を寄せる「パワー」はある。また実際の竿には複数の素材が併せて用いられていることが殆どであり、超高弾性をうたう製品がその素材のみで作られているわけではないことも多い。とりわけ大物狙いののべ竿釣りでは、感度や自重に多少の犠牲は払っても、粘りのある、強度的な「折れないパワー」のある竿こそが適任だろう。


一方で竿には自重と調子の限界がある
では単純に強度あるカーボンを十分に肉厚にした、直径も太い竿が最善かと言うと、そうでもないところが難しいところだ。単純に「折れない」と言う意味でのパワーのある延べ竿は、コロガシ竿のカテゴリーに多くみられるだろう。大錘を使用されることを前提に、また粗い扱いも想定されており非常に頑健にできていることが多い。最近のものはカーボン含有率も十分であり、魚を寄せる反発力としての「パワー」も十分だろう。しかし、実際にはとりわけ脈釣りで用いるならば振込み、流しで非常に快適性に欠け、さらにやり取りにおいても破損は少ないが竿を曲げる楽しみ、魚とのやり取りの楽しみが少ない。結局のところ、単純にパワーだけを求めれば快適性に欠け、逆に快適性を求めればどこかで強度的な不足が生じる。この間のバランスが取れた竿こそがもっとも大物延べ竿釣りに適した竿であり、このバランスをどこに設定するかということで、大物延べ竿釣りに必要な竿のパワーと言うものが決まってくると言えるだろう。
自分の釣りスタイルが必要な竿のパワーを決める
「折れない」という強度面での竿のパワーに主眼を置きつつも、快適性や掛ける前までのプロセスの重視によって、必要な竿のパワーは変わってくる。また、その時々のターゲットによっても変わってくるだろう。例えば、置き竿で狙えるような鯉などの場合、掛けた後の強度を最優先で竿選びをすべきだ。一方、鮭鱒類の様に本流釣りで釣る場合は振り込みや流し、また取り込みにおいてもウェーディングした状態でいかに足元まで寄せるかといったポイントも考慮し、総合的に竿のパワーの程度を検討すべきだろう。サケ釣りの様にアタリが多く多少のバラシも仕方がないというスタンスで釣りをするならば、竿のパワーがあり過ぎるのも面白くないだろう、一方で、アタリの少ない貴重な魚を狙うのであれば、掛けたら絶対に獲れるラインと竿で臨むことになるだろう。また、釣り場が広く沖へ走られれば終わりという様な所では絶対的にパワーのある竿が必要となるし、川幅が狭く下っていける場所なら良く曲がる竿で愉しむのも面白い。 ただいずれの場合も、基本的には「折れないだろう」と思える竿と「切れないだろう」と思えるラインで臨むことが魚への配慮であるし、竿のパワー云々というのは、そこを最低ラインとしてさらにパワーを用意するかどうか、という議論であるべきだろう。基本、掛けたら、獲るということが、延べ竿大物釣りをむやみなラインブレイクで魚を傷つけるだけの釣りにしないための、大切な考え方だろう。