本流竿での魚とのやりとり、取り込み Vol.2
場所によっては正解が間違いとなる
もちろん、竿を上流側に45度寝かせるなどというのは、一般的な本流での話であって、例えば止水域での釣りや海など深場を釣る時等は、全く通用しないことになります。深場では下に走られることが多くなるので、この時は竿をしっかり立ててこれを防ぐことが大切です。しかし、いくら深場でも魚が下に走らない ならば、今度は沖へ出ることを防がなければなりません。だとすると、竿を左右に寝かせてテンションの方向を変えてやることは、効果があることがあります。 自分の足で付いて行くことが出来ない方向へ魚がどうしても走ろうとする時は、竿の角度を変えてやることでテンションの方向が変わり、魚が行こうとする方向 を変えることに繋がることがあります。よって、先ほどの限界地点での「譲歩の仕方」には、竿の角度を変えてやるという第三の方法もあるわけです。無論、効を奏するかは運次第ですが。


危ないならば一気に行く
竿を曲げながら魚の引きに耐えることは、本流竿でのやりとりで最も楽しい瞬間の一つです。いわゆるタメといわれるもので、魚の引きが収まるまでぐっと曲げこんだ竿で耐えます。魚の引きが収まったら徐々に寄せにかかり、ランディングということになります。
しかし、このためている状況というのは、いつこちら側が劣勢になってもおかしくない状況です。この状況でもなお魚が走りだそうとすると、先に述べた譲歩のいずれかの選択肢を取らなければならないということを意味します。
ですから、出来ればこのタメの時間は無い方が獲れる確率は上がるわけです。これは釣り味を損なう方法ですが、変にやりとりを楽しもうとしてためていると、いよいよ魚が走りだしてこちらが負けに転じることもあるわけです。
確実に取りたい、あるいは、ロッドのパワーから考えてあまり余裕の無い相手をかけてしまった場合は、一気に曲げこんだ後、続いて寄せにかかってしまうことも一つです。このとき、竿を更に曲げ(立て)ることで寄せるのは難しいですし、竿への負荷がかかり過ぎますから、竿の角度は曲げこんだままそのままで、 自身が後ずさりして寄せる方法が良いでしょう。これを行うならば、一気に行くのが良いです。掛けた後曲げこみ、そのまま後ずさりする一連の動作を迷い無く行えば、魚は走りだす瞬間をいっときも与えられることが無いまま案外ランディングできるものです。とにかくこれはスピードが大切。もたもたしていると走りだされます。
曲げこむ度合いは竿の調子次第
竿をどの程度曲げるべきなのか、あるいは立てるべきなのかということは、竿の調子によってその適切な解は変わって来ます。
本流竿は通常胴調子です。しかも、相当の胴調子です。更に、長さがあります。よって、竿を満月のように曲げても折れないわけで、逆にこれくらい曲げないとロッドパワーを最大限出す事は出来ません。ですので、通常本流竿ではグリップエンドを魚に向けて、竿のバットは後方を指し示すまでに曲げこんで、円弧を作りだすのが一般的です。
無論、限界はあります。自分で竿の曲がりが見えなくなるほどに竿を立てて曲げてしまうと、それはもはや曲げ過ぎで、破損の危険があります。この辺りの限界点は、竿によっても異なりますので、実戦で感覚を養うしかないのではないでしょうか。
一方、先調子の竿の場合、胴調子の竿と同じように曲げこむことは必ずしも得策ではありません。先調子の竿を胴調子の竿のように曲げこもうとしても、バットが硬過ぎで思うように曲がらないばかりか、結果穂持ちなどに過度な負荷がかかって折れるだけです。先調子の竿は、立てすぎない、曲げ過ぎないということです。基本的に、竿を立てる限度は90度くらいまで(ここでは仮に竿をまっすぐ立ててやり取りするとしての角度を言います)で、グリップエンドを魚に向けるところまでいかない程度です。よって先調子竿は「応援団釣法」にも向いています。これが通常の胴調子本流竿だと120度とかあるいはそれ以上曲げこむこともあるわけで、グリップエンドは文字通り魚の方向を向くことになります。
先調子の竿が曲げ過ぎに向いていないのは、胴調子のようにどんどん曲げればそれだけ曲がりが下へ伝わり漸進的に曲がって行くというものではないからです。先調子の竿はちょっとやそっとの力では曲げられない硬いバットがあります。単純に竿を絞って行くだけではこのバットの前で曲がりがストップします。硬すぎるバットを曲げるにはどうすべきか。それは、ロッドとラインの角度を鈍角気味にしてやることです。ここでのポイントは、この鈍角気味の状態ではラインに相当の負荷がかかるので太糸を使用すべきだということです。硬いバットを狙い撃ちで曲げるには、しっかりしたラインで鈍角気味にし穂先や穂持ちはラインと同化させた上でバットのいくばくかの曲がりを生み出す事です。ここで胴調子竿のような満月の曲がりを期待することは得策ではありません。先調子竿の硬いバットはそもそも曲がりにくいが故に幾許かの曲がりでも十分な力を発揮します。
結論的には、そもそもの話として胴調子竿は曲がりが深く先調子竿は曲がりが浅い傾向になることはお分かり頂けると思います。相応に、前者は曲げこみを深くする必要があり、後者はその逆です。これはどちらがいいというものでもありません。前者は曲がりが深い分譲歩するときの譲歩幅が大きくなり、クッション性が高いため細糸を扱えます。また、曲がりの起点がアングラー寄りになり、てこの原理が働きにくくなり魚の引きを必要以上に大きく感じさせることがありません。一方、デメリットとしては高いクッション性は裏を返せば魚に走られる機会を与えやすく、それを回避するには常に先手を取って大きく曲げこむ必要があります。後者は曲がりが浅いので譲歩幅が少なく、硬いバットの力でも抑えられない大物が走りだすと対応に苦慮します。その分も含めて太糸が有効です。クッション性も低めですのでやはり太糸が望ましくなります。一方、譲歩幅が少ないというのは猶予が少ない、つまり魚に走りだすチャンスを与えにくいということです。しっかりしたタックルで臨めば短期決戦で大物を仕留めることが可能です。ただし竿の曲がりの起点が遠くなる為てこの原理で釣り人への負荷は大きくなり、魚の引きが実際以上に大きく感じられ易くなってしまいますので超大物狙いには不向きです。


最後までテンションを緩めない、隙を与えない
これはよく言われていることですのでお分かりになるかと思います。とりわけ本流竿でのやり取りでは、魚が力尽きて竿をどんどん立てて寄せて来る段階で、もう大丈夫だと安心したり、あるいはあまり竿を後方に倒し過ぎるのがはばかられてテンションを緩めてしまうことがあります。確かに、あまり後方に倒し過ぎていきなり走られたりすると今度は竿の破損の危険が出てくるわけですが、魚は岸近くになると俄然力を発揮して逃げようとするものです。それを防ぐためにも最後までテンションを与え続けることが大切です。もはや逃げる隙はないのだということを相手に伝えるようにするべきです。テンションが緩むことは相手に反撃の隙を与えるだけでなく、針のはずれをも引き起こすことがあります。
本来、柄の短い渓流タモでのキャッチを行うにはどうしても最後の段階で竿を大きく倒す必要があり、ここは竿の破損の危険とテンションが緩まる関係上魚の土壇場での逆転の危険の両方が存在するわけです。これを回避するには竿の角度を保ったままのずり上げか、柄の長いタモ網でのランディングがベストではありますが、実際問題としてこれらが一般的な本流釣りでいつもできることとは思えません。
よって、最後のランディングは特に慎重に行い、それまでに相手の力を十分に奪っておくことが大切です。また、必ず流れのゆるい場所へ誘導した上でランディングするようにしましょう。これは取り込みそのものを楽にするだけでなく酸素量の少ない水域に相手を来させることにも意味があります。
竿を急いで曲げ込まない、逆転の発想
今まで魚の走りだしをいかに封じ込めるか、いかに相手を抑えつけたまま勝負を決めるか、という観点からやりとり、取り込みについて論じてきました。というのも、ここでは竿のパワーからして限界付近の大物に、出来るだけ一歩も譲らずに対応する方策を想定してきたからです。いつも相手の動きに応じて動ける場所で釣っているとは限りません。一度走られたら終わりという様な限界地点の大物に、一歩も動けない場所で対応するには、今まで論じてきたような先手を打って曲げこみ、魚の走りだしを許さない方法が必須であると考えます。
一方、もう少し余裕があるならば、話は変わって来ます。魚というのは確かに、テンションを与えなければそれほど暴れないことも多いものです。そもそも暴れるのは、自分にかかる過度なテンションから逃れたいということで暴れるわけです。軟竿趣味の人が大物をあやしながら見事に釣り上げたりしますが、それはこの理屈を背景としています。
この方策で行くならば、魚をかけたからといってすぐに曲げこむのは考えものです。魚が走りだしてやむなく曲げて行き、しかも魚が走る方向の先手をとって竿を傾け、まるで魚を誘導するかのように泳がせながら手前へ寄せて来る…そんな方法もあります。磯釣りなどでは良く行われている方法です。
しかしこの方法は、或る程度こちら側に余裕があって出来るものです。どんなにテンションをかけないと言っても、針と糸がかかっている以上魚は走りだして何の不思議もありません。魚の先手を見る余裕があればいいですが、そんな余裕もなくラインを切られる可能性もあります。タックルに余裕があり、相手がそれなりのサイズ以下で無いと、このような「あやす」方法でのやりとりはリスキーです。
更にこのようにして寄せたところで、いざランディングの際は魚はいずれにしても暴れるでしょう。しかも、それまでの格闘が少ない分、ここでの暴れはより危険なものとなります。これにも対処できる余裕がないといけないということです。
獲るか獲られるかといった大物と対峙するならば、あまりこのような方法に頼るのはどうかと思います。中型以下を楽しみながらやりとりするには良いでしょうが、やはりここ一番の大物にはしっかりとしたタックルで先手を取って確実に仕留めたいものです。
