本流釣りにおける仕掛けの流し方とは…?
おそらく脈釣りを初めて経験される方にとって、ウキの付いていない仕掛けを流れに乗せて流すというのがいったいどのようにしてなされるのか、というのが最も難しい問題ではないでしょうか?
本流釣りで行う脈釣りには、大きく分けて2種類の流し方があります。1つはラインを立てたナチュラルドリフトと呼ばれるタイプのもの、そしてもう一つはラインを斜めにしてブレーキをかけながら流すドラグドリフト、聞き流しと呼ばれるタイプのものです。
いずれの方法でも、仕掛けは川の底の水流に乗ってゆっくりと流れるようにするのが基本。ここでウキがあると表層の速い流れに押されてウキが仕掛けを引っ張ってどんどん流されていきます。脈釣りの利点は、このウキをなくすことで表層の流れにとらわれず、仕掛けを急流下でもじっくりと流す事が出来ることにその1つがあります。
ゆえに本流釣りの仕掛けの流しというのは水流がある場所を前提とした話になってきます。それはラインを立てた流し、斜めにした流しでも同じこと。流れの緩やかな下流ではそもそも思うように仕掛けは流れてくれません。練習をする際は実際の本流釣りの釣り場やそれに準じる場所で行うようにしましょう。


立て糸での流し
いわゆる渓流釣り、本流釣りよりももっと上流で細糸を使ってヤマメ等を釣るスタイルでは、このラインを立てた流しが主流です。
この流し方はナチュラルドリフトと言われるタイプのもので、仕掛けを文字通り川の底の流れ、即ち底波に乗せて流していくというものです。この流し方では、錘と竿先の間のラインはほぼ垂直になっています。ただ、これは決して吊り下げているのではなく、底波に乗っている仕掛け(錘+餌)に穂先を追従させながら、その間のラインを張らず緩めずの状態にしている、という、微妙な感覚の上に成り立っているものです。
これを実現するには、適切な重さの錘セッティングと、まず仕掛けを底波にうまく入れるということが大切です。錘については、重すぎると底波に乗ることなく川底に沈んでしまい、これを防ぐには穂先から吊下げるようにせざるを得なくなりますが、この吊下げたような流しでは決して自然に流れることはありません。逆に軽すぎるオモリではいつまでたっても底波に乗ることなく、表層の強い流れに押し切られたままになります。この場合、目印が表層の流れと同じ速度で流れ、また目印やラインが安定せずふわふわするのですぐに分かります。しっかりと底波に入ると、目印は表層よりもゆっくりと流れ、尚且つふらつきません。文字通り底「波」に乗っているので、多少穂先を揺らしたりラインを緩めてもすぐには目印に動きは出ません。それだけ安定して流れているということです。
つまりこの流し方では、底波に乗せるのが命となります。そのためには錘の選択もそうですが、底へと仕掛けを持って行ってくれる「女波」を見つけそこに仕掛けを投入することが大切です。流芯の流れの強い場所の真上にどかんと仕掛けを投入しても強い表層流が邪魔をしてなかなか仕掛けは落ちていきません。かといって大錘をつけると沈みはするが波には乗りません。よって、流芯の脇や反転流のある所など、仕掛けを底へと入れやすい場所に投入後、狙いのポイントへと流して行くようにしましょう。
立て糸のメリット、デメリット
この流し方は、一旦底波に仕掛けを入れると殆ど何もせずに穂先を追従させるだけで餌が自然に流れてくれるので楽と言えば楽ですが、逆に錘のセッティングや女波の選定等シビアな部分もあります。また、このスタイルはいわばオートマ釣法であり、底波が自動に仕掛けを操縦してくれる反面、底波の言う通りにしか仕掛けは流れません。つまり、途中で止めたり、速度を変えたり、仕掛けを浮かせたりといったマニュアル的な操縦には不向きです。したがって、とにかく不自然な流れ方の餌を嫌う、ヤマメやアマゴなどの釣りに適していると言えます。
また他のメリットとして、適切な錘をセッティングすればネガカリは少ないこと、自分から見てまっすぐ正面を釣るので最も遠距離を狙うことが出来ることなどが挙げられます。更に、上図でも分かる通り、この流し方では餌が錘の前後後ろにフリーに動くことが出来ます。餌の抵抗が大きければ餌が錘に先行しますが、実際は錘から上のラインとの抵抗の方が大きく餌は錘より遅れて来ることが多いものです(オモリ先行)。この場合、餌を魚が咥えてその動きを止めるとそれが即ち目印に出ることになります。逆に餌が先行していると、そこで魚が咥えても理論上は錘が餌を越えて行った後でないと目印には出ないことが分かります。
オモリ先行の利点としてこのようなことが言われますが、現実にはこの立て糸での流しではそこまで厳密にラインを張っていないので目印の動きをきちんと読めないとこの利点を手に伝わるアタリとして享受する事は難しく、次に紹介するドラグをかけた流しに感度上で必ずしも優位というわけでもない場合が多いです。
立ち位置について
この流しでは、上図の通りポイントのほぼ正面に立つことが最も遠方まで探ることの出来る立ち位置となります。ポイントより上流に立つと、仕掛けが流れを横切るような形になりやすいですし、糸が斜めになりやすくなります。ポイントより下流に立つのは上流側に立つよりもましですが、それでも正面に立つときほど広範囲を自然に探ることは出来ません。この流しでは基本的には正面に立つような立ち位置を心がけましょう。


ドラグをかけた流し 本流釣りの基本
本流釣りではナチュラルドリフトよりもむしろ主流なのはこのドラグをかけた流しではないでしょうか。ナチュラルドリフトでは、
底波に仕掛けを乗せて流しますが、底を摺るような流しや、底波よりも更に遅い流しを実現するには、ドラグをかけた流しが必要になってきます。この流しでは、仕掛けが流れるのを止めたり浮き上がらせたりといった操作が容易なのも特徴としてあげられます。
この流しの呼び名は様々あり、聞き流しやドラグドリフト、ブレーキングドリフト等色々な呼称があるものの、どれも微妙に異なる文脈で用いられることが多いです。よってここではあえてそれらの名称を用いないでおきます。また以下この流しでの基本を底をきちんと取り底石を叩きながら流すような記載をしますが、これに対しても必ずしもこのドラグをかけた流しが底を摺るような流しをベースとするとは限りません。底波に乗せながらその速度を更に遅くするような流し方の方がむしろ良く用いられるかもしれません。しかし、確実に底を取るというのはこの流しの基本であり、ナチュラルドリフトとの対比を鮮明にするためにも敢えてここでは底を摺るような流しをベースとして記述しています。
この流しでは、常に竿先から錘までのラインは張った状態が基本です。いわば、錘が流されて行くのを、竿先で待てよ待てよと嫌々ながら追従して行くような感覚です。錘は時に底石にあたりながら、地を這うように流れて行きます。完全底を狙うのが基本です。したがって錘は重めのものが基本となります。ナチュラルドリフトのように底波に乗る錘よりもさらに重めのものを使い、その重い錘が流れで底石にあたりながら流されていく、それを更に竿先でセーブしながらゆっくりと流していく…といった感覚です。
勿論、状況によってはいくらか軽めの錘を使って底を切って流しつつ、適宜竿先の速度を緩めてブレーキをかけ、ストップ&ゴーのように流していくという手もあります。仕掛けの操作がしやすいのもこの流しの特徴でした。またこの流しでは、重めの錘を使うので急流でも半ば無理やりに仕掛けを沈めてしまうことが出来ます。女波に上手く入れないといけないナチュラルドリフトより、この面は幾分楽といえます。極端な急流では1号クラスの大錘でズドンと沈め、時折竿先を上げてボトムバンピングのように流す手法もあります。
斜め糸の角度設定
この流しは、ナチュラルドリフトを立て糸の流しとすると斜め糸の流しと言えます。仕掛けにブレーキをかける以上、ラインは幾分斜めになります。この角度をどれだけ取るかというのも、一つのポイントになって来ます。この角度が90度に近いほど、立て糸流しに近くなります。そのメリットは…
1. 感度が高くなる(糸が張っている以上、糸は直角に近く水中にある糸の長さが短い方が感度は上がる)
2. 流し終わりでの余裕が出来る(流し終わりでは竿先がもう動けず必然的に角度が小さく糸が寝ていくため)
3. 遠方を攻めやすくなる(水中にある糸の長さが短くて済むため)
逆に角度を小さく(例えば30度や45度)していくメリットは…
1. 仕掛けの操作がし易くなる(立て糸寄りよりも糸のテンションは上がりストップをかけても即応性がある)
2. エサ先行を作り易くなる(エサ先行のメリット解釈は別として…)
最後にどちらとも言えない、しかし重要な点としては…
*立て糸寄りでは糸は垂直寄りになり、水流を垂直に受けるのでオバセが出来、仕掛けが底から離れやすい。
*一方斜め糸では水中にある糸の長さは長くなり、ともすれば水流に乗っかった感じで寝ながら浮きあがりやすい。
斜め糸は一般に水切り抵抗が良く仕掛けを底に留めやすいとされるが、あまりに斜めにすると横に寝た長いラインが水流に乗って浮くことも多いので、闇雲に斜めにすればいいというわけでもない。適度な角度が重要。
以上を勘案した上で、もっとも実践して頂きやすい角度がおおよそ60度程度のマイルドな斜め糸ではないかということです。無論、流し終わりではその角度は45度程度迄減じていくことになります。
斜め糸のメリット、デメリット
この流し方は、仕掛けのスピード、動きを自分でコントロールできるマニュアル性にそのメリットがあります。或る意味でルアー釣り的要素をもたらしてくれるものです。かつて重めの錘で底石を叩きながら釣る手法は、ナチュラルドリフトにとって代わられましたが、確実に底を取りながら、自由に仕掛けを操作できるこのスタイルは、押しの強い流れの中できちんと底を取り、かつ遡上魚の様にイレギュラーなアクションも要求される本流釣りでは、かえって主流となる形になりました。ナチュラルドリフトではどうしても底取りがアバウトになりがちで、沈めているつもりが実は中層を流れていた…などということも多いのです。
この流し方は必然的にエサ先行の流しとなりやすいです。オモリ先行のメリットはナチュラルドリフトの紹介の際に書いた通りですが、ではエサ先行では目印にアタリが出るのにタイムラグが生じて不利なのかというと実際問題は殆ど感じることはないでしょう。逆にエサ先行のこの流しではエサからのラインが全て張っているので、手で感じる感度はオモリ先行のナチュラルドリフトより格段に高いものです。誤解を恐れず言うならば、ナチュラルドリフトは目印頼み、ドラグをかけた流しでは手感頼みといったところでしょうか。
この流しは底石に錘を当てながら流したりもする以上、ネガカリをしやすいのではないかと思われるでしょうが、ラインは常に上流側に倒れており、引っかかったとしても軽く竿を上流側に煽れば外れることが多いものです。ネガカリが多い場所では敢えて仕掛けを止め、浮き上がらせることで回避したりすることもできます。慣れればむしろナチュラルドリフトよりネガカリは少なくなるのではないでしょうか。


立ち位置について
この流しでは、上図の通りポイントよりも上流に立って流した方がより遠方まで広範囲に探ることが出来ます。また。必然的に糸に角度をつけやすく、仕掛けの操作もしやすくなります。ポイントの正面に立ってしまうと無理に竿を寝かせなければなりません。更にポイントより下流に立つとそもそも糸を斜めにすることすら難しくなります。したがってこの流しが多用される本流釣りでは、釣り上がるよりも釣り下がるほうが理にかなっているとも言えます。
S字流し
水中でのラインの形がS字のようになるのでS字流し、この流しは先に見た二つの主流となる流しに加えて覚えておきたい流しです。この流し方は先に見たドラグをかけた流しの派生形です。あまり一般的ではないかもしれませんが、状況によっては有効なスタイルです。ドラグをかけた流しでは、糸を直線的に張って、底を摺る錘をゆっくりとセーブしながら流していくというものでした。それは非常にマニュアル性が高く、自然に流すには釣り人の力量を問われるものでもありました。ラインが直線的に張っている分、微妙な竿先のブレや流しのぎこちなさが如実に仕掛けに現れます。こういったイレギュラーさが逆にアクションになる遡上魚狙い等では良いのですが、極めて自然なエサの流れを好む魚には、ドラグをかけた流しはナチュラルドリフトに及ばない部分があります。
S字流しは、ドラグをかけた流しをより自然に流そうというコンセプトで成り立っている流し方です。この流し方では、ラインは斜めにするものの、直線的に張るのではなく、通常は忌むべきものとして嫌われる表層流によって出来るオバセを、敢えて作り出すことで効率的に大錘を自然に流すことを可能にしています。理論は以下のようなものです。ドラグをかけた流しから更にラインを水中へ送り込んでいくと、当然、表層流によって余分なラインのオバセが出来ます。これは水流を受け仕掛けを浮き上がらせながら流していく力を持っています。この力で、通常なら川底に沈んで止まってしまう様な大錘を、コロコロと転がしながら流す事が出来ます。しかも、それは水流とオバセの力によって殆ど自動的になされるので、不自然さがありません、ラインも張っていないので、魚が咥えてもテンションを感じにくく、勝手に針がかりし易いものです。竿の操縦はラインの角度を保持しながら、ただついて行くだけです。ナチュラルドリフトの斜め版ともいえるでしょう。
S字流しのメリット、デメリット
このように書くとこの流し方はいい事ずくめのように聞こえますが、ラインを大きくたるませる分、感度は随分劣る事になります。どちらかというと「掛けた」というよりも「掛かった」といった釣りになり易く、絶対的な感度が要求される遡上魚などには不向きです。目印のわずかな動きを読むことでアタリを読まざるを得なくなるのがこの流しです。しかし逆に、先述の通りラインが張っていないので遅合わせでも魚がかかり易く、捕食性の魚を狙うには有効な流し方です。
この流し方のメリットには、遠方を攻めやすいというものもあります。ドラグをかけた流しのようにラインテンションを張って流すと、どうしても錘が吊下げられる時間が生じ、結果として錘が手前に寄って来ます。ナチュラルドリフトのように底波に乗せる方法では、このような事は起きにくいですが、底を確実に取るという点からは不安な側面があります。そこでこのS字流しでは、大きくオバセが出てラインが張っていないので、吊下げ効果が生じにくく、錘を手前に寄せにくいというメリットがあります。竿一杯の、ギリギリのラインを攻めるには有効な手段の一つです。ただ水中に入る糸の長さが長くなる為、その分は損をする事になります。
さらに、川底が起伏に富んでいてかつ、状況をつかみにくい中でも、ほぼ確実に底を攻め続けることが出来るメリットもあります。というのは、ドラグをかけた流しでは、例えば錘が確実に底を捉えているのを判断するのは、時折、石にコツコツとあたる感覚が主となり、後は目印の動きなどで判断することになります。それでも、泥質の底などで着底を判断しにくかったり、底が急に深くなったり盛り上がったりを繰り返している場合、くぼみの部分やかけあがりを攻め損ねている場合があります。S字流しの場合では通常なら流れないような大錘を、オバセを使って引き摺り流すことが出来ます。つまり、例え急なくぼみやかけあがりがあったとしても大錘は確実に底をトレースして沈んでいき、その時はオバセが減じるだけになりますから、底を仕掛けが離れることはありません。泥質で着底が分かりづらかったとしても、ズルズル…と明らかに引きずったような流れ方を目印が見せている限り、錘が底を這っていることは明らかです。つまりほぼ確実に底を捉えながら、ゆっくりと仕掛けを流す事が出来るのです。
しかしご察しの通り、この流し方をするならネガカリは避けて通れないものです。そもそも、この流し方はいかなる状況でも確実に底を捉え、かつゆっくりと自然に流していくことを最大の目的としているので、そのリスクとしてのネガカリは避けられません。
とはいえ、ドラグをかけた流し同様、上流側に竿を軽く煽ってやれば外れることが多いです。ただ、上図の通り錘付近は糸が前方に倒れているので、通常より大きく煽ってやらないと十分なテンションが伝わらないことになります。基本的にこの流し方は、ネガカリの少ない泥質や砂地の底の釣り場に向いています。


程度の問題
ここまで、この流しは大錘をオバセで引き摺って行く、ヘビーなスタイルのように紹介しましたが、もちろんアレンジ次第では様々なスタイルに合わせて修正することもできます。そこそこの錘にしておき、オバセも少なめにしておくことで、完全なナチュラルドリフトスタイルでは少し不安な流芯を、底波に乗せながら自然に流していくといった半ナチュラルドリフト…といった応用も可能ですし、逆にいわゆる止め釣り、完全に大錘で仕掛けを止めて狙うスタイルに於いて、ほんの時折仕掛けを移動させるのにオバセを用いるといった事も可能です。オバセを大きくするには、ラインをより斜めにする必要があります。基本は上図の通り、45度程度を一つの基準としながら、この角度のオバセでコロコロと引き摺られていく程度の錘重量を設定します。その上で、底波に乗せて行くようなスタイルならばラインの角度を大きくし、錘も軽めにするか、あるいは錘はそのままにライン角度を小さくしてオバセを拡大させ、浮力を増加させることで底波に乗せて行くという形もあり得ます。この辺りは程度の問題ですので臨機応変に対応して下さい。
立ち位置について
この流しでは斜めにラインを倒しているものの、仕掛けはラインの入水点よりも後ろにあり、往々にして自分の正面を釣るのが最も遠方まで探ることのできる立ち位置となります。ただし大きくオバセを出す場合はドラグをかけた流し同様に、ポイントより上流に立った方が効率的になって来ます。